病院でのアロマテラピー
私がアロマセラピストになったのは、アロマセラピーを補完療法として、病める人々の苦しみを和らげたいと思ったことが理由です。
~病院アロマの仕事と病院で働くことになった理由~
私が初めて病院の緩和ケア病棟で、がん患者さんにアロママッサージを行ったのは、今から26年前にさかのぼります。
当時の日本は、アロマセラピーを知る人は少なく、「病気の人にアロママッサージを行う」ことは、ほとんど知られていませんでした。
1998年1月、IFAコースを卒業した同期メンバーと一緒に、病院にアロマテラピーを普及するための「アロマテラピー・ケアグループ」を立ち上げ、病院でアロマの講習をしたり、アロママッサージを体験していただくボランティア活動を始めました。
活動を初めて9か月後、東京郊外のS病院から、「病院職員にアロマについて話をしてほしい」という内容の電話を受け取り、「アロマテラピー・ケアグループ」として病院でアロマの講座と、医師や看護師の方にハンドマッサージをすることが決まりました。
その後、病院から「患者様でアロマの希望者がいるのでマッサージをお願いできますか?」とご連絡いただいたので「大丈夫です」と答えると同時に、患者さんと主治医にマッサージの同意書をご用意いただくよう依頼しました。
当日は、ケアグループのメンバーと2人で病院に行き、簡単な講習を行ったあと、病院長や事務長を含めた病院職員の方15人ほどに、順番にハンドマッサージを行いました。
途中で私はスタッフの方から緩和ケア病棟に案内されました。
病室に入ると、60代前半の女性の患者さんがいらっしゃいました。
彼女は末期の乳がんで、寝たきりの状態でした。
以前、アメリカで友人からグレープフルーツのアロマオイルをプレゼントされたことがあり、お部屋に香らせて楽しんだことをお話されました。
それで、「病院にアロマセラピストが来ると聞いて、ぜひアロマオイルでマッサージをしてもらいたくてお願いしたの」とのことでした。
すでに身体は動かすことができませんでしたので、ハンドマッサージを行うことにしました。精油は、思い出のあるグレープフルーツを選びました。
約20分間のマッサージを終えると、患者さんは「あ~、何て気持ちが良いのでしょう!」と仰っていました。お見舞いに来られた3人姉妹の方々も、「何て良い匂いなんでしょう」と口々に話されていました。そして「私達にも出来るかしら?」と尋ねられたので、「ええ、出来ますよ」と簡単に方法をお伝えしました。施術後は、3姉妹の方々がエレベーターまで見送ってくださいました。
病室から戻り帰宅準備をしていると、病院の担当者から、これから定期的にアロママッサージのボランティアに来ていただけないか、とお話をいただき、この病院でアロママッサージのボランティアをスタートすることになりました。
S病院は約220床あり、急性期病棟、慢性期病棟、緩和ケア病棟、認知症病棟があります。
定期的にボランティア活動ができるメンバーが他に居なかったため、私一人からスタートしました。
緩和ケア病棟を中心に、各病棟の看護師さんが患者さんにお声をかけてくださり、主治医の許可をもらっていただきました。私が病院にいくと患者さんのお名前、疾患名などの情報が記載されているリストが用意されていました。リストの内容に基づいて、当日の患者さんの体調をナースステーションで確認してからマッサージを始めました。
約半年たった頃、病院からアロマの希望者が多いので、ボランティアをもう1人増やしてもらえないか、と提案されました。それでもう1人増えて、2名体制でボランティア活動を行いました。
3年ほど経過した後、病院からボランティアではなく、病院の正社員として就職してアロマセラピーを患者さんに行ってほしいと提案されました。それで、当時一緒にボランティア活動をしていた一人が病院に就職してアロママッサージを担当しました。
彼女は約2年病院で働いていましたが、結婚で退社することになり、後任を探しましたが見つからなかったため、病院と協議して、正社員ではなく、私を含めて4人のアロマセラピストがパート勤務として病院で働き、患者さんにマッサージをすることになりました。
その後、病院内にアロマルームを作っていただき、緩和ケア病棟に入院している患者さんのご家族は無料でマッサージが受けられました。また、夕方5時以降は病院職員が有料でマッサージの施術を受けられました。職員のケアとしてアロマルームが利用出来る制度はとても良かったです。
病院の患者さんへのアロママッサージは、多くの経験と素晴らしい思い出、そして患者さんから多くの勇気と希望をいただきました。
Kさんは61才女性で、脳出血の後遺症で左手と左脚に麻痺があります。左手の第二指~第四指が完全に曲がった状態なので、左手で何かを手で持つ動作が出来ないため「悔しい」と仰いました。麻痺のある手指を丁寧にアロママッサージすると筋肉が柔らかくなり、指が少し伸びやすくなります。曲がっていた指が一部伸びた時、患者さんの目から大粒の涙が流れました。「もう諦めていたのに、指が伸びるのですね!」と。私が「今はマッサージで指が一部伸びていますが、この筋肉は屈筋と言って、また縮んで元のようになります。ただ、これからリハビリやマッサージを続けていただくことで、筋肉は少しずつ柔らかくなると思います」とお話すると、「リハビリ頑張ります!」と明るい声で仰っていました。
Tさんは72才の男性。末期の前立腺がんで、緩和ケア病棟に入院されていました。
初めてお会いした時はまだ入院したばかりで、一見お元気そうに見えました。
お部屋に行くと、いつでもマッサージが受けられるように、うつ伏せになって待っていらっしゃいました。自由に病院を歩き回られ、時には駅前までショッピングにお出かけされていました。
次第に身体が辛くなり、起き上がるのも大変になった頃から、「これ(アロママッサージ)をもっと広めて欲しい。いつでも受けられるようにしてほしい。」と何度も何度も言われました。身体が辛かったのだと思います。彼の言葉は今も私の耳に残っています。
75才の女性は外来患者でアロママッサージを受けている方でした。
肺がんで、症状は、咳、胸痛、呼吸困難、息切れ、嗄声(声がかすれる)などの症状があり、主治医からは約700mlの胸水が溜まっていると言われていました。呼吸が苦しくて辛そうで毎週通われていましたので、呼吸筋を優しくマッサージを続けたら呼吸困難と嗄声が少しずつ改善し、胸水が500mlに減ったと主治医から告げられた、と驚いておられました。そして、「アロママッサージ以外、何も新しいことをしていないのだから、アロマのお陰」と仰っていました。
オーストラリアに住むお嬢様と会いたいと仰っていたので、主治医に確認していただいたところ海外旅行はOK。オーストラリアで久しぶりに娘さんのご家族と過ごされました。
アロママッサージは痛みを和らげたり、不安や恐怖を和らげたり、血流を促したり、筋肉を柔軟にするなど、様々な辛い症状に働きかけることが出来ます。
緩和ケア病棟での患者さんと、外来アロマやサロンでのがん患者さんへのアロマテラピーマッサージをする時は、主に2種類の異なるアプローチで行っています。
緩和ケア病棟でのアロママッサージの目的は、精油とマッサージで痛みや怠さ、吐き気、不眠などの症状を和らげることと、死への不安を和らげて、今生きている時間を少しでも楽に感じていただけるように、アロマの心地良さを経験していただいて安心して天国にお見送りすることだと考えています。
外来アロマやサロンのがん患者さんへのアロママッサージの目的は、アロマで痛みや怠さ、吐き気、肩こり、腰痛、不眠などの症状を和らげることと、明日の希望を見つけていただけるよう側に寄り添い、残された人生を最大限楽しんでいただくこと、そして免疫を上げて病気の影響を最大限低下させること、と考えています。
精油とマッサージという素晴らしい技法を用いて、病気で苦しんでいる方々のサポートしてまいりたいと思います。
